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庭と住まいについて

花井 架津彦

私は庭が好きなライティングデザイナーです。
自宅を建てたときも建物を小さくして、たくさんの樹木を植えました。
夏場は毎日1時間の水やりと炎天下での雑草とり。
高所恐怖症なのに10尺(約3m)の脚立に登って剪定作業。
苦労はありますが、育てることを楽しみながら庭木とお付き合いをしています。
ほぼ毎日 庭木を観察しているので樹木のライトアップにはこだわりがあります。

■葉を「障子紙」か「漆器」と見立てる。

夜は光がなければ闇となり何もみえません。そこに光を当てるとモノが認識できて
闇に景色を浮かびあがらせる。これがライトアップの考えです。
シンボルツリーをライトアップするときも、照らしてほしいのは「葉」です。
葉を闇に浮かび上がらせて、昼間とは異なる夜景をつくりだします。

このときどんな「葉」を照らすのか。
私は落葉樹か常緑樹を見分け、ライトアップをかんがえます。
例えるなら「落葉樹の葉は障子紙」「常緑樹の葉は漆器」と見立てます。

アオダモやモミジなどの落葉樹の葉は、厚みが薄く淡い緑色。
障子紙のように光が透過します。やわらかく光る葉が連続し、
落葉樹の葉で間接光をつくりだします。

アオダモ

ツバキやハクサンボクなどの常緑樹の葉は分厚くて光が透過しづらく、表と裏で表情が異なります。

ハクサンボク


太陽の光を受ける表面は、漆器のような艶があり「照り葉」とも呼ばれ
反射板のように光を照り返します。
葉の表を照らしたほうが美しいので、光を上から落とすライティングをします。

光を透過する落葉樹と照り返す常緑樹では表情が異なるため、
樹木に見合った照明手法を提案しています。

■アッパーライトは樹木の影を意識する

夜のまちなみを歩いていると、とても気になるのが樹木を照らしたときに
外壁に投影された影の存在です。

影あり

影の原因は地面に置いた「スパイクスポット」です。
地面からの強い光が下から上に向かい、同時に影も下から上に伸びていきます。
地面から伸びた逆さの影は、子供が「お化けごっこ」で
懐中電灯で下から顔を当てた時と同じ影が発生しています。
逆さの影は「不安と恐怖」を助長し、ホラー映画でもたびたび使用する照明手法です。
この影を消すことは簡単で「スパイクスポット」で樹木を裏から照らします。
瞬時に影は消え去り「幹」と「葉」が夜の闇に浮かび上がり
美しいライトアップにうまれ変わります。

影なし

■理想の光は月あかり

理想とする樹木のライトアップは「月あかり」だと考えています。
「自然に存在する樹木は、自然に近い光で演出する」これがたどり着いた答えです。
月あかりはとても繊細で青白い光なので、そのまま照明に置き換えても
演出効果は弱く、街路灯や窓からもれるあかりに負けてしまいます。
ここで言う「月あかり」とは光と影の方向です。
自然界の光は、空から地面に光が降り注ぐ「上から下の自然な光」

上から下の光

外構照明の光は、地面から空に向かって光をあげる「下から上の不自然な光」

アッパーライト

光も影も自然に演出するのであれば、上からのあかりをオススメします。
上から光を落とせば、地面が光を受け止めて樹木と同時にグランドカバーも演出できます。
ただし、「月あかり」を再現するには、外壁にスポットライトを取付けなければならない。
建物を設計する段階で庭の配置を検討し、外構・造園工事の前にスポットライトを設置する必要があります。

建築工事と外構工事を分断しては、月あかりのような演出はできません。
自然で美しい庭の夜景をつくるには建築と造園と照明を同時進行で設計する必要があります。

■夜の窓は「鏡」

夜も部屋から庭を眺めたい。
「内」と「外」がつながる空間を現代の「庭屋一如」と解釈し照明提案に組み込んでいます。

美しい窓の景色を作りたい。このときは室内を暗くする照明を提案します。
普通の照明計画による普通の明るさでは、窓は室内の景色が映り込み鏡に変化します。

映り込んでいる

庭のライティングをどれだけがんばっても、見えてくるのは窓に映り込んだ自分の姿になります。
「内」と「外」の景色をつなげるには、明るさのバランスをととのえる必要があります。
庭の照明を明るめに計画し、室内を暗くできるように調光器を設定します。
映り込んだ鏡状態の窓は、調光器のボリュームと合わせて透明に変化します。
窓に浮かび上がる庭の景色は、カーテンを閉めるのがもったいない美しさがあります。

映り込まない

照明を明るくすれば何でも見える。夜の生活において必要な条件です。
ただ、部屋を暗くすることで見える美しい景色と豊かな時間があることも忘れてはいけません。

■さいごに

庭は敷地内で完結するものではなく、景観という意味では外部に開かれた空間です。
きれいな庭の夜景を、街におすそ分けする。
この思想があつまることで、美しいまちなみがうまれます。
私も「素敵な庭ですね」とほめられるとうれしくなって、手入れをがんばってしまいます。
庭をつくることで、敷地の「内」と「外」であいまいな中間領域がうまれ、
地域の井戸端会議の場にもなります。

庭と住まいの関係は、室内の「内」と「外」をつなぎ住空間の質を向上させます。
また地域住民の「人」と「人」のつながりもうまれます。
庭は良質な中間領域をつくる「場」なのです。

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